「はっ・・・・・・・・・あ、いや、ぁぁっ」

 何度目だろうか。
 あんな事が言いたかった訳ではない。
 ただ傍にいて欲しいだけなのだ。
 愛した者だから、こんな世界だからこそ放したくはない。

「魁耶・・・・・・もっと、声上げられるだろう?欲しいなら欲しいって啼かないと、解らないだろ」
「ふ、くっ・・・・・だ・・・・れが・・・・・」
 
 片手で魁耶を押さえ込み、もう一方は中心を蹂躙する。
 精一杯の虚勢を張ってはいるが、握り込んで擦り上げてやるとビクビクと腰を跳ね上げる。

「達きたいだろ?言わなきゃずっとこのままだ」
「・・・・・・っの・・・ずる・・・・ぶんばっか・・・・りっ」
「・・・・・強情だな」
 
 根本を締め付けたまま、ソレを口に含む。ぴちゃぴちゃと音を上げて舌を絡めると、途端に暴れ出す。

「やっ、あぁ!春、それ厭ぁぁぁっ・・・・・・」
「じゃ、言ってみろ。どうして欲しい?」
「言えな、ひぁっ?」
「じゃあ、このままだな」
「やだぁっ」
「魁耶・・・・・・いい加減にしないとどうなるか、解ってるよな?それとも、酷くされたいのか」
「違・・・・・かすが・・・・・かすがぁ・・・・・・」
 
 涙で濡れた瞳で見上げながら、拘束していた腕を放してやると、ぎゅっと抱き付いてくる。
 魁耶が厭がる事をしているぐらい、解っている。
 自分の行為が、狂気じみているということも。
 だが、やらなければ気が済まない。この小さな躯が、自分を求めるように呼び、抱き縋るのを受けて止めるまで不安で堪らない。
 魁耶が求めているのは自分なんだと。魁耶自身で示して欲しくて。

「言えないなら選ばせてやろうか。挿れて欲しいか、達かせて欲しいか、どっちにする?」

 暫くの間、蹂躙し続けていた手を止めてやる。
 上がりきっていた息を整えながら、魁耶は腕の力を更に強め、消え入りそうな声で囁いた。

「・・・・・い・・・れて・・・・・春日・・・欲し・・・」
 
 返事の代わりに舌を絡める。溢れる唾液さえも、舌先で掬う。
 きゅうっと締め付ける魁耶の中から指を引き抜くと、自分の猛ったモノを押し入れた。

「っい っ!!!」
 
 手足を硬直させ、喉を反らせながら痛みに耐える。
 声すらまともに上げられない。
 そんな魁耶の額を撫で汗で張り付いた前髪を梳きながら、俺は何度も魁耶の名を口にする。
 少しでもいい、魁耶が楽になるように。
 そうしながら、ゆっくりと体を動かしていく。
 強烈な快感が走り抜ける。
 今まで躯の渇きを癒すために、魁耶以外にも何十と躯を繋げたことはある。
 だがそうする度、一層魁耶の躯の良さを知った。
 他の者では満足などできない。魁耶でなければ、もう達くこともできない。
 ぐちゅぐちゅと響く卑猥な肉摺れの音が、快楽を求める意識に火を付ける。
 締め付けていた指を放してやると、箍が外れたように魁耶は白濁を放つ。

「随分と溜まっているようだな・・・・・・っ」
 
 後ろを突き上げ、前を擦りながら耳元で囁く。
 その言葉ですら、魁耶は快楽に打ち震えていく。
 春日の怒張を締め付け、自ら腰を振り始めていることにも、気付かない。
 もうほとんど意識はないのだろう。
 ただ快楽を追い求める部位だけが、はっきりと目を覚ましている。
 他の意識も人格も押さえ込んで、肉欲に忠実な魁耶が目を覚ます。

「・・・・・・・・・ふっ・・・・は・・・・ぁ」
 
背中に回していた手を春日の頬に当てながら、魁耶は微かに微笑んだ。

「・・・・・・・・・・魁耶?」
「・・・・てる・・・・・・愛・・・してる・・・・・・・・・・・・・」
 
 春日がどうしても口にできなかった言葉が、はっきりと胸を突いた。

「んくっ、ひぁはっ・・・・・・・あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 同時に深く穿った瞬間、魁耶は嬌声をあげ、意識共々果てた。

「・・・・・・・・・・・魁耶っ」
 
 俺には、その言葉は言えない・・・・・








 いつの間に此処へ移動したのだろう。
 研究室の隣にある仮眠室。簡易ベッドとは言ってもそれなりに立派な物である。
 此処で行為に及んだかは定かではない。意識が残っているのは手術台の上でだけだ。
 怠い体を上半身だけ起こして、魁耶は暗雲で覆われた空を見上げた。
 体中が残滓でベタベタする。散々喘がされ、喉も痛い。口に残る特有の苦みから、彼のモノを銜え込んだらしい。

「・・・・・苦手なのにな、アレ・・・・」
 
 ポソッと口にすると、隣で眠る者へ視線を移す。
 魁耶の躯中に所有の印を付けておきながら、それでも離すまいと彼は自分を抱き寄せ眠る。
 そうまでしてやっと安らかな寝息を立てる彼の寝顔は、女性のように綺麗だと思う。
 そう考えて、ふとある曲を思い出す。
 宮雪から貰ったCDの中に、一枚だけ紛れ込んでいた邦楽。
 その中に入っていた曲で、何となく胸に残るものだった。
 気が付くと口ずさんでいる。そして、今も。

  壁に映る姿は    生まれ変わる前のままに
 見つめ合う二人は    「最後の夜....」と呟いて  
  この夜が明けるまで     熱い想いで踊る


 この曲に出てくるピエロと少女が、何だか凄く今の自分と春日に思えた。
 拾われる傀儡、それを待つ少女。
 自分と春日。
 あまりにも似合いすぎて、自嘲の笑みが漏れる。

  綺麗な夜だから   哀しい夜だから
  泣かずに笑って   見守ってあげる


 今日は、今日だけは泣かないよ。笑って、見守ってあげる。
 今の僕たちだから、そうしてあげる。
 月も星も見えないけれど、光なんかいらない。
 このままでいい。このままがいい。
 ずっと、二人で。

  寂しい夜だから   最後の夜だから   
  これからも二人を   離したりはしないから
       忘れたりはしないから.....             


 忘れない。どんなに追いやられても、他の者に奪われても、絶対に。
 この躯も、脳も、指一本だって、僕の物なのだから。
 今この瞬間だけは、ずっと覚えておくよ。
 だってこれが、

「最後の夜だから・・・・・」
 
 抱き付いた春日の腕を放し、魁耶は額に一つ唇を落とす。
 本当にさよならだよ。
 僕らはもう、戻れない。
 
 この関係も、この世界も、総て、さよなら。
 それでもいい。最後に春日と一緒になれたから。
 でも、もっと早くもっと長く、こうしていられればよかったね。
 お互い、素直になれなくても。
 肌を重ねるだけで、倖せだったから。



一部歌詞の引用アリ…ジャスラックさんゴメンサイ。。。



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