教えられたフィールドの見取り図は、妙に入り組んでいた。
いつもならすぐに覚えられるのに、今回ばかりは手こずった。
それでもやらなければ。快感を貪るために。
意識の中に確認できる別の意識(もや)を振り払うように、2回、頭を振る。
たった一つの出入り口である扉に立つと、神経を集中させる。
相手の気配は、無い。どうやらこちらが先だったようだ。
感覚的に悟り、フィールド内を確認するように歩き回る。
一番大きな部屋に辿り着いたとき、真正面に感じた。予想通りだ。
「こーんにちわ★お兄ちゃん」
明るい声。今までとは違う。気配を隠そうともしない。
「君が?」
「そぅよ。アタシが今日の遊び相手★貴方の名前は?」
暫く悩んだ後、自分にしっくりくる方を選ぶ。
「魁耶」
「本名なの?確か相手の名前はないしょってことだったような・・・でもいっか☆アタシはチリ。小日向 チリ。よろしくね♪じゃぁ・・・どうやって遊ぼっか?前の人とは鬼ごっこをしたのvVでも詰まらなかったぁ。みんなすぐに死んじゃう(捕まっちゃう)んだもん!」
子供特有のコロコロと変わる表情。無邪気な声、笑顔、動作。
これを殺せと言うのか。
「っ!?」
今のは。
「・・・・・・・・・・終わらせる!」
すぐに終わらせなければ。覚醒だけは許さない。
今は俺の躯なのだから!!お前の・・・オリジナルのものではないっ!!!
「っきゃあ!?・・・・何よもぅ、非道いじゃない!アタシ、まだお話してるの・・・よ!!」
魁耶の繰り出した拳をしゃがみ込んで避けると、相手は左足を旋回してくる。
それを後方に飛んで避けると、一旦体勢を立て直す。
立ち上がった少女は、スカートに付いた埃をパンパンと払い落としている。
「もぉ、お兄ちゃん。びっくりさせないでよ!もう一寸で当たるところだったよ」
「・・・・・・・・・・」
「でも、そのスピード大好きvVだって、それ位早かったらすぐには捕まらないでしょ♪
じゃあ、今日はいつもと逆ネ。アタシが逃げるから、お兄ちゃんが捕まえるの。もしアタシに触れたら、お兄ちゃんの勝ちにしてあげる」
ヨーイドン、と。少女は言って走り始める。
だが、それを追いかける気はしない。
研ぎ澄ませ。
彼奴は必ず此処へ戻ってくる。
その時が勝負なのだ。
どれくらい経ったろうか。
MDの音に混ざって、小さな靴音が近づいてくる。
タン!と靴音高らかに入口に到着した彼女は、甲高い声を挙げる。
「もぉ〜!!!お兄ちゃん、どうしてアタシのこと追いかけて来ないの!?折角アタシが遊んであげてるのに!」
やめてくれ。もうこんな事なんかしたくないんだ。
どうしてなんだ。僕にこんな事をさせる為に、君は。
教えてくれ、春日。
「・・・・・・・・・どうでもいいから、一寸黙れよ」
「え?なぁに?」
「っせぇな。てめぇに言ってんじゃねぇよ。ったく、グチグチグチグチ鬱陶しい。
オリジナルだが何だか知らねぇがな、お前にこの躯に口出す権利なんかねぇんだよ」
「お兄ちゃん?」
あぁ、また。
僕の意識は強引にねじ曲げられていく。
お願いだ、チリ。
今すぐに、逃げてくれ。
君を-------。
-------ザシュッ
「------- 殺したくない、だとよ。同情なんて気持ち悪い。なぁ、そう思わねぇ?」
「カ・・・・・・・・・・ハ・・・・・・・・・ハッ・・・・・・・・・・!?」
一瞬のこと、だったんだと思う。
この小さな体が、僕の腕に貫かれたのは。
ごめんよ。本当に、君は殺したくなかったんだ。
「ふん。油断するからこうなるんだ。自分が一番なんだって先入観を持ってやがる。いけ好かねぇ野郎だよ。気に入らない奴は殺すのが俺の生き方なんでな」
叩き付けるように、僕はチリを腕から払い落とす。
何時の間に僕は、外の世界が見えるようになっていたんだ。
「邪魔なんだよ、アイプロテクター(こんなもん)なんか。彼奴と違って俺には視力が必要なんだよ。こういうものを見て、楽しむためになっ!」
--------グチャッ!
ビクビクと痙攣するチリは、半ば恐怖の目で僕を見上げていたんだろう。
ごめんよ、チリ。
僕にはこの躯を自由に動かす権利がないから。
別の意識が支配していれば、僕はそれに従うしかないんだよ。
例えこの足が、君の意識の中心を、踏み殺したとしても。
辺りに飛び散った血液や肉片を、眺めることしかできなんだ。
僕は君を、助けてあげたかった。
僕がこんな風でしか、生きてこられなかったように、きっと君も。
僕のようになるだろうから、この闇からどうか。
生きて・・・・・・・。
「お前は無能でしかない。まして生き物とも呼べない。この躯はもうお前の物じゃない。俺達の物だからな!」
誰のものでもない、僕の高笑いが辺りに響く。
僕が、笑っているんだよ。
解るかい?
“君”が僕を、こんな風にしてしまったんだ。
嗚呼、ドウシテ。僕ニコンナ事ヲサセル為ニ、君ハ。
僕ヲ生キ返シタトデモ云ウノカ。
教エテクレ、春日。僕ハアノママ死ンデイタカッタ。コンナ事ニナルナラバ。
怨ンデモ怨ンデモ怨ンデモ、君ノ事ガ怨ミ切レナイ。
「彼は何の為にデリンジャーを手にしたのでしょうね?」
いつものモニター室で観戦していた城白に、宮雪はゆっくりと歩み寄る。
坐っている彼に躯を絡み付かせると、着ているものをくつろげていく。
「・・・・・・・お前には専用の‘犬’がいるだろう」
「そろそろ彼にも飽きてしまいましてね。あとは・・・・そうですね。挿れられる方はどんな感じだろうと、興味が湧きましたから」
「興味本位で俺に抱けと?」
立ち尽くす彼を映したモニターを見つめる。
珍しい。
魁耶自身(オリジナル)が躯の主導権を握っているのか。
暫く見ることの出来なかった、あの瞳が。
何かを決めたかのように鋭くなるのを、今まで何度見てきただろう。
俺が、生きてきた中でただ一度
「・・・・・・・・・・ふっ・・・・・・・・・・・・」
そんなことを考えていると、中心にねっとりとした生暖かい感覚と、鼻から抜けるような喘ぎが聞こえる。
一瞥をくれるように視線を移せば、跪いた宮雪が城白の中心を銜え込んでいる。
「・・・・・・・・・・人の話を聞いているのか」
「快感を貪ることに愛など必要ない。気持ち悦くなれればそれでいい。そうは思いませんか?それとも、貴方が生涯でただ一人愛した彼ではないと、抱けはしない?」
唇を離し、城白の上半身に吸い付きながら、目を細めて宮雪は言う。
「・・・・・・勝手にしろ」
突き放すように一言吐き捨てると、宮雪は城白に騎乗し。
「・・・・・・ンく・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・ぁぁっ・・・・・・!」
肛孔に城白のモノを銜え込ませながら、歓喜の喘ぎを漏らす。
「・・・・・・・・っはぁ、あ・・・・・・ぁん・・・・ねえ?この腐りきった世界では、愛など無意味なのですよ?・・・・・・・・愛しい者は・・・・決して手には入れられない。解っていますか?・・ぁっ・・・・・城白春日クン?」
ギシッと椅子が軋むほど腰を揺らしながら、宮雪は城白の唇に自分のソレを重ねる。
「・・・・・・・・・そんな事は理解している。だからこそ、何時でもこの米神を撃ち抜けるデリンジャー(道具)を持っているんだろうが。なぁ、魁耶?」
「・・・・・・・・・・・・ っぁあ!」
城白が呟いたのと宮雪が果てたのは、ほぼ同時だった。