閑静な住宅街。言わずもがな、此処に住まいを立てているのは財産家ばかりである。
そんな中で、ある二つの家は家族ぐるみの付き合いをしていた。
某大手百貨店の社長と某有名ブランドの社長。
そして彼らには、可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて仕方がない一人息子が居る。
百貨店には藤本 香葵(こうき)、ブランド社には東雲 那琢(なたく)。
彼らは同年代ということもあり本当に仲良しで、近くの公園でよく遊んでいたものだった。
その公園には一寸大きめの水飲み場があり、当時背の足りなかった二人は、いつか一緒にそこで水を飲もうと決めていたのだ。
しかし、年齢とともに遊ぶ機会はめっきり減り、家族での付き合いはあるものの、逢わずにいた月日はどんどんと重なっていったのだった。
「那琢(なたく)くん・・・・今頃どうしてるんだろ」
部屋の机に突っ伏して、大きな溜息を吐くのは藤本 香葵。17歳。
最後に遊んだのはいつだったか・・・思い起こして更に気分はメチレンブルー。
ぶっちゃけた話、那琢と同じ高校に通ってはいるが、最近めっきりガラの悪くなった彼には近づけないでいた。
正直言ってかなりコワイ。気弱な香葵はもう姿を見るだけでビビッて足が竦(すく)んでしまう。
でも、昔のように遊びたいのだ。何でも一緒にやって、一緒に笑いたいのだ。
彼が好きだから。そう、ただ純粋に、友達として、彼が好きだから。
一方、香葵の部屋の真横に位置するお隣では、東雲 那琢がベッドで蹲(うずくま)っていた。
香葵よりも深い深い溜息を分速一回の勢いで吐き出しつつ、気分はダークブラウン。
「なんで・・・・」
半ベソでもかいているんじゃなかろーかという声のトーンで、ベッドの上を転がり回る。
確実に香葵に避けられている。姿を見せようともしないし、この間、家の前で偶然にもバッタリ巡り会ったときは『あ・・・』と言って脱兎の如く家の中へ避難されてしまった。
「何でだっ!?久しぶりに顔合わせたんだぞ!!それなのに逃げるなんて可笑しいだろっ(泣)俺の何かがいけなかったとでも言うのか!!?」
必死の形相で自分に向かって爆走してくる奴が居たら、そりゃ逃げたくもなるだろう。が自分の表情を確認できない那琢が、それに気付くはずもなく。
普段、那琢は一般高校生と変わらず爽やか(?)青少年であるのだが・・・香葵が絡むと興奮してしまう状況に陥っているらしい。
つまり、日がな一日香葵のことを考え(末期症状)、友人にまで(幼い頃の)香葵の(惚気)話を聞かせ、それに対しての友人の返答が何であれ(例えば香葵を莫迦にしても、可愛いなどと誉めたとしても)、(『俺の香葵を莫迦にすんじゃねぇ!』だとか『俺の香葵に手を出すな!』などと)一方的にキレて掴みかかる、という事を延々繰り返しているワケだ。
そして不幸なことに、その掴みかかっているところを香葵は常時目撃してしまい、【那琢=怖くなっちゃった親友】という方程式が組み上がってしまったのだった。
「香葵・・・・久しぶりに見たら又一段と可愛くなってvVあの背丈だと俺の胸辺りだよなぁ。そういや、風邪気味だって2組の遠藤が言ってたっけか。大丈夫かなぁ?アイツ昔から病弱だし.....俺だったらいつでも看病してやれるのに。着替えとか手伝って、寝るときとかずっと傍にいてやって、そんで『有り難う那琢くんVv』とかって、あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜vVvV(萌)」
青少年の妄想は停まらない。
しかし、突然。
「な・・・・那琢くんっ」
と、窓の外で自分を呼ぶ声がする。
まさかと思い鼻息荒く窓を開けると、香葵が真っ赤になり震えながらこちらを見ていた。(←相当怯えているらしい)
頑なに閉じられていた鉄の扉のようなカーテンも窓も開いている。
香葵が、あの可愛らしい声で、俺の名前を呼んだのだ。俺の名前を(悦)
-------ブシュゥッ!!!
「っ!? ななな、那琢くんっ?どうしたの!?鼻血出てるよ!!?」
「なん・・・でもな・・・・い。取り敢えず、何か用か?」
「あ、う、うん。あのね・・・・・・・・・・・・・・コレ、読んでくれるっ?」
「? 一体何を・・・・ってガハァッ!!!??」
『るっ?』と同時に香葵は大きく振りかぶり、どうやら鼻血も一息ついたらしい那琢の顔面へと何かを投げつける。
ガゴンッ!と投げられたものと後ろへ吹き飛んだ那琢が、次の言葉を掛ける前に香葵は窓を閉め、鍵を掛け、カーテンをぴっちりと引いた。
フラフラする頭を振って起きあがると、何が飛んできたのかと見やる。
それはどうやら、投げやすいように空き瓶に入れた手紙らしかった。
「こんな【海に流す定番】みたいなプレゼントくれて、よっぽど恥ずかしかったんだな。まったく香葵の奴、クラクラするほど可愛いぞvV」
クラクラするのは其処ではないだろう。自分の頭に痛みはないのか。
鼻と額から血を垂れ流しつつ、いそいそと手紙を開く。
そこには。
「 僕もう、あの水飲み場で水が飲めるくらい大きくなったよ?
那琢くんと同じ年だし、大人だから、頑張って那琢くんみたい
になるから、僕と又遊んでくれる? 」
「こぉぉ----------きぃぃ----------」
-------ガシャァーンッ!!!
「きゃぁーーーーーーーーーーーー!!???」
香葵の手紙を読んだ那琢は、堪らずダイブ!
二枚の硝子をぶち抜いて香葵の部屋へと大進入。
そしてそのまま最愛の相手を抱きしめる。
訳が分からず、香葵はただただ困惑するばかり。
服にはべっとりと那琢の血(もちろん鼻)が染みついていく。
「なななな、那琢くん?どーしたのっ?まさか、僕を殴りに来たとか・・・!?(汗)」
「あーもー、香葵可愛すぎ☆別に俺はお前が子供だろーが、大人だろーが関係ないっつの。寧ろ、もぅそのままでも俺はいろいろと都合良いけど・・・・いやいやいや、何でもないよ?俺はもー、お前のためなら髪の毛なくなっても構わねぇって。ってか、お前以外のために俺が何かをするなんてあり得ないけどな!」
「ほ、ホントに?ウソじゃない?」
眉尻を下げて不安げに問う。潤んだ瞳は揺れて。
ああ、ヤバい。何かが切れて、何処かが暴走しそう。
「俺は香葵には嘘つかねぇよ」
「ぅわーい☆じゃあ、これから又いっぱい遊べるんだね☆」
満面の笑みでの上目使い。ひしっと抱き付いてくる華奢い躰。
ヤバい、ホントにヤバい!
神様、俺、死んでも悔いはありません(嬉)
「僕たち、これからも友達だよね!ね、那琢くん☆」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と?
「・・・・友達?」
「うん、友達☆これからずぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっとね☆★」
天真爛漫にロケットランチャー発射。
ああ、なんか。もぅ、どーでもいいや・・・・
「あれ?那琢くん?どうしたの!?那琢くん!!」
ふっと自嘲的な笑みを浮かべ、那琢は遙へと意識を飛ばす。
遠くでは可愛らしい声が響いている...........
「母さぁーん!どぉしよう、那琢くん、可笑しくなっちゃったカモっ」
「あらあら、大変。東雲さんにお電話しなきゃいけないわね」
此処は何処だろう。もしかして、死後の世界というヤツか?
それにしても、アレだな。出来過ぎてやしないか。
幾ら幻だからといって、俺と香葵が一つのベッドで寄り添いあって眠るなんて・・・・
「◎◇$★刀ホ∇※!!!!???」
駄目だ、待ってくれ。感触がリアルすぎてこっちが困る!
頭がクラクラするのはその所為かっ!? ※出血多量です
「あれ〜?那琢くん、起きたの?おはよ〜」
呑気に目など擦っている場合ではない。香葵はこの状況が不思議ではないのか?
「なんかね〜母さん達がね〜、祝☆仲直り記念でね〜、リアル夫婦(めおと)ごっこを体験させてくれるんだって〜」
因みに僕が若奥さんね、と。無邪気に宣って下さる最愛の妻。(←既にヤル気満々)
彼女たちが何を考えているのか定かではないが、夫婦ごっこということは、美味しく頂かせて貰ってもOKデスカ?
「あとね、母さんがね『ナニかあったときは責任とってネvv』だって。ナニかってなんだろぉね」
ああ、お母さん、お義母さん、可愛い孫は諦めて下さい(謝)
僕たち、大人の階段を上ります///(照)
だが。
「っすまん、香葵!俺、実は急用入りそう!ちょっと出掛けてくるからっ」
自分の格好を簡単にチェックした後、上着だけを引っかけて外に飛び出る。
はっきりしてきた頭からすると、多分今日は日曜日。
友人との合コン(頭数合わせだが)がっっ!
畜生!なんでこう、香葵とラヴラヴになれるかも♪ってときに、こんなくだらない事せにゃならんのだっ!(怒)
俺は健全な青少年なんだっ!(爆)
日もとっぷり暮れた秋の住宅街。
那琢は猛然とマイホーム(違)へと帰路に就いていた。
あと数メートルで最愛の妻(だから違)の待つ家に辿り着く!
が、矢張りかなり後ろめたい・・・・。
どうしても抜けられなかったとはいえ、返事も聞かずに飛び出してしまった上、他の奴らと遊んできた帰りである。
平然と家に帰れるわけがない。
情けないことだが、まずは庭に回って香葵の様子を窺うことにした。
音を立てないように門を開け、抜き足で植木まで忍んでいく。
塀があるので気がゆるんだのか、カーテンは開け放たれていた。
中の様子が丸見えだ。香葵は今朝と変わらぬ格好にエプロンを付けている。
コレが又似合うのなんのって。取り敢えず悩殺・・・(惚)
暫くソファに座ってぼんやりしていた香葵は、不意に窓辺へと寄ってくる。
カラカラと控えめに開けて、そのまま縁に座り込む。
「・・・・・・・・・・・・那琢のバーカ」
独り言のように呟いた。しかも呼び捨て。呼び捨て(嬉)!
「遊んでくれるって言ったのに。一人で行っちゃって、竜田山は夜は危険だって母さん言ってたぞ。・・・大丈夫かな」
香葵、俺の事心配してくれるのか?
嬉しいよ!嗚呼、感動で鼻血が・・・・・!(暴走中)
香葵、俺もう、我慢できねぇかも(悶)
「こぉぉ---------きぃぃ---------」
-------ベキバキボキッ!
「きゃぁーーーーーーーーーーーー!!???」
そんな香葵の様子に、那琢は堪らずダイブ!
松の木二本をへし折って、香葵の元へと大突進。
してそのまま最愛の相手を抱きしめる。
訳が分からず、香葵はただただ困惑するばかり。
服にはべっとりと那琢の血(もちろん鼻)が染みついていく。
「俺、絶対お前のこと幸せにするからなっ!だから俺のために、一生みそ汁作ってくれ!」
「なな、那琢?どっから帰ってくるのさ?残念だけど僕、おみそ汁嫌いなんだよね。だから他の人に作って貰ってくれる?」
意味の解っていない香葵は、にこやかに否の返事を返したのだった。
fin.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。もう掛けてやる言葉も見つかりません。
大体コレ、原本がどうとかって次元の話じゃない。ただの莫迦話orz