そっと開いた手のひらに滲む、ぬめった液体。
これは誰のものなの。
アナタなの。それともアタシなの。
白く鈍く、濁っていく意識の中で、目の前に横たわる一つのカラダを見た。
触れたそれには、温もりのかけらもなく。
その堅い冷たさが、次第にアタシの体に広がって、関節がギシギシと悲鳴を上げていく。
ゴドリと、力無く重力に引き寄せられたのが分かった。
もはや抵抗する気力などなく、素直に、コンクリートの床に寝そべった。
無機質な石と一体化していく、意識と体。


ねぇ、このカラダが、朽ちるときは来るのかしら?


声にならない疑問を投げかけながら、アタシはアナタに手を伸ばす。
ああ、だけど。もう届かないわ。
この手も、音声(こえ)も、電波(おもい)さえも。
アタシがアナタの時を止めたの。
一緒に逝きたくて。
アタシも、もうすぐ止まるわ?

だって辛かったの。悲しかったの。
生きていかれなかったの。

このカラダに流れる、幾億という液体が、アカイロをしていないと知ってしまったから。
ねぇ、アナタは知っていた?
アタシたち、最初から生きてなどいなかったの。
無機質だったの。
動いているだけだったのよ。

それでもきっと、また目が覚める時はくるのでしょう。
アタシはアタシではなく、アナタはアナタではなく。
このカラダは、きっともう少しだけ動きやすくなっているはずね。
限りなく、人間に近づいているのだわ。
そしてまた気付かず、作られた幸せの中でゆっくりと、永久的に。
欺瞞の世界で。

動き続けるの。


そうなる前に、少しだけ休みましょう。
おやすみなさい。



強制的に消されていく意識。
それでも恐怖はなかった。むしろ望んでいた。
早く、早く、一刻でも早く。
このカラダが、金属の塊に為り果てるのを。






またしてもアンドロイドネタ。
どんだけ好きなんだ自分。