卒 業 。




 三年前のあの日、偶然通りかかった別館の、

 誰も通らない通路から見える『桜』に恋をした。


 荒れ放題の校庭の一角、たった一人で真っ直ぐに立つ姿が、

 どうしようもなく綺麗で。


 澄み切った青い空にただ枝だけを伸ばし、

 近くの公園や並木を彩る桜とは違い、

 華やかな花は咲き誇らず、

 散り逝くこともない。


 春も夏も秋も、冬でも、雨ざらしのその下でも。


 いつも、いつでも、たった一人で朗々と、

 それでも確かに僕の目にその姿を映し続けて、

 祈るように、待ち焦がれるように、『桜』は唱う。


 薄紅の美しさに、深緑の力強さに、決して彩られることの無い姿は、

 けれど何よりも誰よりも切なくて儚くて、美しくて。


 ずっと眺めているだけで構わない程、

 胸の締め付けられるような、それでいてふと綻んでしまうような、

 その『桜』にどうしようもなく惹かれていた。



 そうして、どれ程の時間を過ごしただろう。



 遠く、別れの詩が聞こえる。


 微かに冬の香りを残す風に吹かれて、

 僕は僕が惹かれた『貴方』に別れを告げる。


 卒業という名の別れと、再会という出会い。


 『貴方』が、ずっと探していた彼。












   気付いていますか、桜さん。


   貴方の笑顔が咲いたこの瞬間に、


   遅咲きの桜が一つ芽吹いたことに。


   春を恋い慕う、爛漫の桜花です。







花の『桜』と、人名としての『桜』を
リンクさせて書いたんですが…うーん。。。