サァッと、爽やかな風が吹き抜けた。
鈴の音が聞こえる。
夕刻にはまだ早い、けれど昼ほど日差しは強くなく。
縁(えん)に寝そべって、ウトウトする意識の中で、遠く広がる景色を観た。
そこには沢山の緑。
瑞々しく輝く、如何にも生あるモノたち。
庭の向こうに見える小道を、虫籠と網を持った子供が通り過ぎた。
耳を澄ませば、小川のせせらぎが楽しませてくれる。
暑さなんて微塵も感じなくて。
正確には感じることが“出来ない”のだけど、それでも心地良いんだから、別に構わない。
ひどく懐かしい、この風情が。
いや、それはただのデジャビュで。
実際は何もないカラッポ。
鳴き始めたヒグラシの声を聞きながら、再び目を閉じた--------
「お疲れ様でした。如何で御座いましょう?」
「うん、サイコーだったよ。ちょっとまだ“残る”けど」
「それが『記憶』だとか『思い出』と呼ばれるものなのですよ。記憶に残ると言うことは、体験したことが衝撃的だったということです」
「へぇ。さすが、良く知っているねぇ、人間のこと」
「それが仕事ですので」
「そう・・・・うん、確かに凄かったかも。なんだっけ、えぇっと、ふう・・・・」
「風鈴のことで御座いますか?」
「そうそう!いやー、キレイな音だったなぁ。あと、あれ。電池ってゆーすっごく古い起電力発生装置使った殺虫機。面白いもの作るよね〜、人間ってば」
「彼らはムダの多い生き物でしたからね。それが原因となったのですから、世話ありませんよ」
「ハハッ、言えてる〜!・・っと、もうこんな時間か。じゃあ行くよ、次の予定(プログラム)が送信されてきたからね。初期化(オールクリア)される前に又来るよ。次は“海”とかいうのがいいなv」
「畏まりました。我が社が誇るサブスタンティル・バーチャル・システム、又のご利用をお待ちしております」
Fin.
サブスタンティル・バーチャル・システム=3次元の立体映像ってこと。
まぁ造語なんですがwwww