『・・・・!・・・・--・・・・・ッ・・・-・----・・・・・・・・・・・』


                 ああ、煩いなもう。
                 ゆっくり眠れやしない。
                 声には出さずに舌打ちだけで、薄手のブランケットを投げ捨てる。
                 そろそろ本格的に刻まれるんじゃないか、と思うほど、眉間に皺を寄せて。
                 近くにあった壁を蹴り付ける。

                 大した衝撃でもなかった筈だが、そこは灰のようにサラサラと帰化する。


                 「・・・・・そろそろここも潮時か・・・」


                 投げ捨てたブランケットを腰に巻き、うぅ〜っと伸びをしつつ独りごちる。
                 今はもう、帰ってくる言葉など無いが。
                 いや、寧ろ。


                 「今まで、ソレが有ったってことのほーがフシギってゆーかな」


                 頼りにならない小さなバッグに手を突っ込むが、無論触れる物など何もない。
                 逆さに振ってみても結果は同じだが、やってしまうのは人の性。
                 空しく鳴り響く飢餓虫をポンポンと宥めながら、本当に一瞬だけ、思案を巡らせた。

                 そして、同じ答えに辿り着く。


                 「忍びこもーかなー・・・・」


                 ダルい体を動かして、準備を整える。
                 ここから食料庫まで、どれくらいで着けるのか。
   
                 考えて少しばかりブルーになる。

                 設置されたドアに向かうのも億劫で、壁を蹴り壊しつつ隣の部屋へ。


                 「んじゃまー、ちょっくら行ってくっから。もうココには帰ってこないから、ヨロシクー」


                 白いカルシウムの塊となってしまった友に触れ----だがそれは、男が壊した壁同様、サラサラと足下に散った。
                 何度となく見てきた光景を、男は硝子玉の瞳で受け入れる。
                 もう怖いものなど何もない------

                 傍に置かれた残り弾の少ない銃(ベレッタ)と、使い物にならないタガーを手にして。
                 男は『家』を後にした。




                 瓦礫の積もる地を踏みしめ、男は首を巡らせた。
                 この廃墟と化した中央都市(セントラル)で、生き残っているのは何人なのか。
                 奴らは生きるに必要な餌で釣り、ノコノコとやって来た人間を片っ端から殺してゆく。
   
                 何故、こんな事になってしまったのか。
                 知っている者は誰もいない。
                 そう、奴ら-----アンドロイドでさえも。
                 生きる意味も、価値も、理由も、存在意義でさえ、この世にはもう。
                 誰かが開けたパンドラの箱、だけどその中には『希望』なんてものは欠片も残っていなかった。
                 それが現実、それが真実。

                 降り続く銀の雨は、体を蝕み。
                 止むことのないラジオのオトは、気を狂わせる。
                 人間(ヒト)の心も、アンドロイド(奴ら)のデータすらも。


                 『ガガッ・・・・・を・・・・・ザザーッ・・・・げんヲころ・・・・・・ザザッガッ・・・・・・・人間ヲ殺セ・・・殺セ・・・殺セ、殺セ!』






モドル